糖尿病性血管症診療における血管弾性指標CAVIの有用性

永山大二
永山医院

近年糖尿病は悪性腫瘍や認知症との関連も取り沙汰されるようになったが、やはり生命予後に直結する糖尿病性血管症(Diabetic angiopathy)の管理が日常診療における第一義となる。

糖尿病性血管症の主座は全身に及び、細小血管から大血管までサイズを選ばない。また、慢性高血糖やグルコーススパイク、低血糖といった血糖値の異常にとどまらず、インスリン抵抗性、酸化ストレス、炎症等の、糖尿病を形成する基礎病態自体が血管・臓器毒性をもたらすことも明らかになりつつある。しかし、生活指導や薬物治療を駆使してガイドラインに定められた目標値をクリアすることのみに終始していては、十分に動脈硬化進展の抑止をすることはできない。火が燃えていない(血管症が始まっていない)状態で、あるいは燃え尽きて炭となった(末期の血管症が形成された)後で火を消すために水をかけても(積極的な治療介入を行っても)意義は少ない。糖尿病診療医は、①火勢(血管症の進展)をリアルタイムに評価すること、②消火活動(治療)の効果判定をすることが求められる。血管弾性指標CAVIは、①及び②を目的とした動脈硬化疾患の診療に有効であるとする知見が集積されつつある。その一方で、糖尿病におけるどの病態をCAVIは強く反映するのか?血管症が生じる局所(サイズ)によってCAVIの有用性は異なるのか?どのような糖尿病に対する治療介入がCAVIを低下(血管症を軽減)させるのか?等のクリニカルクエスチョンを詳細に解明していくことが、昨今の課題となっている。

糖尿病患者において、特に種々の大血管症を有する例ではCAVIが高値を示すことは既知であるが、腎症や神経症でもCAVIはその重症度を反映する可能性がある。また、糖尿病網膜症に限定されてはいないが、動脈硬化リスクのある症例群において網膜の眼底血流動態もCAVIと連関することも報告されている。一方、単にHbA1cを下げる治療によっては、必ずしもCAVIが一緒に低下しないことがわかっている。このことは種々の大規模試験の結果とも合致する。しかし、減量(フォーミュラ食)や薬剤(チアゾリジン、ビグアナイド、グリメピリド)によるインスリン抵抗性を是正する手法でCAVIは低下する。CAVIはメタボリック症候群の重症度を反映することからも、糖尿病の上流にある病態を強く反映する可能性がある。また、即効型インスリンやαグルコシダーゼ阻害剤、DPPⅣ阻害剤でもCAVIは低下することから、グルコーススパイクの改善も血管症の軽減には有効であるかも知れない。

総括すると、CAVIは糖尿病に起因する大小の血管症を反映するとともに、有効な治療介入によって低下するという可逆性も持ち合わせていると言える。CAVI高値の原因を常に検証し、内臓脂肪蓄積、インスリン抵抗性やグルコーススパイクといった糖尿病の病態、果ては糖尿病以外の要因 (血圧や脂質の異常、喫煙など)に留意しながら診療を行う必要があるものと思われる。