歯周疾患と動脈硬化の関係について
~ながはま0次予防コホート事業~
浅井啓太
京都大学大学院医学研究科 感覚運動系外科学講座口腔外科分野
緒言:歯周疾患と全身疾患との関連について1997年Offenbacherらによりペリオドンタル メディスン(periodontal medicine)という概念が提唱され、歯周疾患の全身への影響、また全身疾患が歯周疾患に与える影響について研究されている。歯周疾患と動脈硬化との関係について、米国では” Floss or die”のフレーズで表現されたように、これらの疾患の関係は大きな関心を集めている。今回の研究では、ながはま0次予防コホート事業において、喪失歯数と動脈硬化との関連について検討した。
ながはま0次予防コホート事業(http://zeroji-cohort.com/examination/examination1.html)は、滋賀県長浜市の市民を対象に2006年に開始されたコホート研究である。長浜市民1万人から集めた様々な健康情報、血液や尿の成分、環境・生活習慣の情報などを統合して解析を行っている。歯科口腔外科分野では、う蝕、喪失歯、処置歯、歯周病の状態に加え、顎関節症や粘膜疾患、咀嚼能力についても調査を行っている。
方法:2007年から2010年に行なったながはま0次予防コホート事業第一期の参加者8124人を対象とした。動脈硬化の評価はCardio Ankle Vascular Index(CAVI)(Vasera VS-1000,1500 フクダ電子)を用いた。喪失歯は、2名の歯科医師により、すべての参加者の歯科検診を行った。アンケート調査の結果から矯正治療や外傷などにより歯を失った場合を除いた。喪失歯数とCAVIの関係について、年齢、性別、Body Mass Index (BMI)、喫煙の既往、ヘモグロビン A1c、インスリンまたは糖尿病治療薬使用の有無を調整した重回帰分析を行った。また、性別の交互作用についても検討した。
結果:性別、年齢、BMI、HbA1c、糖尿病治療薬の使用などのリスクファクターを調整した重回帰分析の結果、喪失歯数とCAVI値に有意な相関を認めた(β=0.03 95%CI 0.01-0.06)。さらに性別による交互作用を含めた解析の結果、女性よりも男性(β=-0.05 95%CI -0.08–0.02)でリスクが高いことが明らかとなった。
本研究のまとめ:喪失歯数と動脈硬化の程度に有意な相関を認めた。喪失歯数は歯周病など口腔炎症性疾患が歯周組織の破壊することで増加する。そのため、喪失歯数は、歯周病の重症度と相関し、過去の口腔炎症性疾患の蓄積を反映した結果であると考えられる。