CAVIで拓かれる血管機能学:その1

白井 厚治
NPO法人血管健康増進協会 理事
医療法人社団誠仁会みはま香取クリニック院長 東邦大学医学部 名誉教授

生体の循環動態は、心臓機能を中心に語られてきた。そして、血管は単なる導管として受け身的にとらえられてきたのがこれまでの循環器学の世界であったように思われる。しかし、心臓足首血管指数(CAVI)が開発され、ある長さを持った動脈の固有の弾性能が計測できるようになり、約10年を過ぎ、さまざまな観察が行われたことを総括すると、動脈自体が積極的に全身循環動態に影響を及ぼし、心臓と並ぶべき機能臓器としての意味が浮かび上がってきた。この血管弾性機能には、さまざまなことが影響を与えると共に、その破綻(機能劣化)が様々な病態を引き起こしている可能性も見えてきた(下図参照)。本講演では、これらの中から、以下4点に限り報告したい。

  1. 加齢指標としての動脈弾性
    CAVIは、測定時血圧に依存しないことから加齢傾向をより正確に反映する。鈴木賢二氏らの行った日本人の男女別のCAVIと年齢の調査を改めてみると、CAVIと加齢の関係がみられ、しかも、男女差も見られている。近年、ヨーロッパでは、Early Vascular Aging Syndrome(EVA症候群)が提唱され、各年代ごとのPWV平均値から95%以上離れた値の人とEVA症候群と定義し、その背景因子(各種早老症候群, 遺伝子検索など)の解析を行う研究がはじめられたが、その研究こそCAVIを指標に行うべきであろう。日本でその研究が始められることを期待したい。思えば、臨床指標でCAVIほど年齢相関の見られる検査指標は他に無いかもしれない。
  2. 動脈硬化指標、及びそのリスク管理指標としてのCAVI
    動脈硬化は、動脈弾性を硬くする第一要因である。これに関してはすでに多くの動脈硬化関連疾患で検討がなされており、周知のごとく各種動脈硬化性疾患でCAVIは高値であるとともに、その危険因子とされる糖尿病、高血圧、内臓肥満などで高値を示す。高コレステロール血症は、やや軽微である。また、これらリスクの改善でCAVIが低下し、これら危険因子のコントロール指標としても用いられる。また、イベント調査に関して、すでに1000人規模で心血管イベント発生予知因子としての意味は国内、海外でも確立されつつある。
  3. 心機能と血管機能連関
    前2者に加え、心機能とCAVIとの関係の報告が相次いでいる、心不全治療時に、CAVI改善者が最も、心機能改善度がよかったこと、また、心不全治療として行われている和温療法にて、CAVIが改善した例程、心機能改善がよいことなど(未発表)を経験し、今後、心不全治療も動脈弾性能改善を考慮した治療が模索されてよいと思いわれる。即ち心不全治療に新たなパラダイムシフトを起こす可能性がある。
  4. 血管イベント発生予告因子としてのCAVI
    継続してCAVIを測定していると、急にCAVIが上昇(0.7以上)する例があり、その中に、その上昇後、2週間から、2,3ヵ月にかけて、心筋梗塞、脳出血、解離性動脈瘤の発生をみた症例に遭遇した。また、東日本大震災時、300km離れた地域においても循環器外来通院患者のCAVIは、一過性に高値を示すことが明らかとなり。さらに、その地区の病院では、脳出血患者が例年の2倍運ばれたとの成績もあり、CAVIがある程度高値(10<)で更に、CAVIが上昇した場合には、近々イベント発生が起こりうる予兆の可能性が考えられ、継続的にCAVIを計測する新たな意味が出てきたように思われる。これまでの臨床で、このような近々イベントが起きうることを予測する指標は、まだ確立していないと思われる。 その機構として、CAVI上昇時、動脈は拘縮を起こしているがこの時、動脈への外膜から栄養血管は締め付けられ、内膜アテローム層への血流途絶が起こり、それによって壊死が発生、そこにマクロファージが集積し、組織融解・破綻によるプラーク破裂にいたる経路が考えられる。これらを示唆する臨床的観察についても、提示したい。