冠動脈疾患とCAVI ―その理論的根拠と臨床的有用性―

堀中繁夫
獨協医科大学 循環器・腎臓内科

動脈硬化の危険因子の集積は内皮機能障害や動脈弾性の低下などの血管機能障害を引き起こし、動脈硬化の進展さらには心血管イベントを引き起こす。従来、心血管病発症のリスクは動脈硬化の危険因子を用いて評価されてきたが、症例ごとに危険因子の影響に差がありリスクの評価が難しかった。近年、簡便な血管機能を評価する検査法が臨床応用され、心血管病発症リスクの推定のみならず治療効果の判定にも応用されている。そこで、血圧の影響を受けない局所の血管の硬さであるstiffness parameterβ(β)と、脈波伝搬速度と血圧から求めたβともいえるCAVIとの比較ならびに冠動脈疾患に対する臨床的有用性について検討した。

256列のMDCTを用いて、1心拍中の上行および下行大動脈最大および最小断面積を測定し(図1)、同時測定した上腕血圧値を用いて局所のβを算出し、CAVIとの相関を検討した。上行大動脈の肺動脈分岐部の高さの局所βとCAVIは有意な正相関(r=0.49)が認められ、局所のPWVのように血圧の影響を受けなかった。

図1
同一心拍中の大動脈最大面積と最小断面積の差を赤色で示した。Case 1はCase 2に比べ最大と最小の差が小さく、動脈が硬い。
Case 1: 74歳,女性, 上行大動脈β=40, CAVI=10.4
Case 2: 56歳,男性, 上行大動脈β= 6, CAVI= 6.9

CAVIは、大動脈基部から足首までの血管全体を見ているが、大動脈は容量血管で、大腿動脈以下は筋性血管であり、これを分けて考える必要がある。そこで大腿にもカフを装着し検討した。htβとhaβは年齢に強い相関を認めたが、taβは年齢に相関せず高値を示し、ばらつきが大きかった。htβはtaβの約1/2と柔らかく、haβはhtβに約80%依存していた(図2)。しかし、haβとhtβの冠動脈病変の有無に対するROC解析では、両者に差は認められず、htβはhaβに比べ診断率は向上しなかった。

図2
正常者の各部のβ (検診者51例)
htβ:大動脈基部から大腿までのβ, haβ:大動脈から足首までのβ, taβ:大腿から足首までのβ

CAVIが主に大動脈の硬さをみているならば、血圧は中心血圧を用いるべきである。そこで、測定時の上腕血圧と中心血圧の差がCAVI値に及ぼす影響について検討した。心臓カテーテル時に、カフ上腕血圧と大動脈基部の中心動脈血圧(直接法)を用いて、各々算出し、CAVI値の差について比較した。両方法で算出したCAVI値は、高度の相関(r=0.95)を認め、その差は-0.83と小さく、CAVIは大動脈基部から足首までの血管全体のβの平均値と考えられることから、算出時の血圧値をカフ上腕動脈血圧と仮定することに臨床的妥当性があると考えられた。

CAVIは、冠動脈疾患患者の血管内超音波で測定した非病変部の左冠動脈主幹部のプラーク量(R=0.65)、さらにはMDCTで測定した下行大動脈の壁厚と(R=0.39)と有意な相関が認められた。 冠動脈疾患が疑われた症例において、baPWVとCAVIとのROC解析の結果、冠動脈病変の有無によるAUCはbaPWV 0.58、CAVI 0.69でCAVIはbaPWVに比べ有意に診断率が高かった(p<0.05)  (図3)。

図3
冠動脈病変の有無によるbaPWVとCAVIのROC曲線とSensitivityとSpecificityの比較 (n=696)